原作者・裕夢先生インタビュー

アニメ化が決まり、今回メインスタッフなどの情報が解禁されました。今のお気持ちをお聞かせください。

これはもう色々なところで言っているのですが、『千歳くんはラムネ瓶のなか(以下、チラムネ)』は「このライトノベルがすごい!」で殿堂入りという評価をいただいたりしている中でアニメ化を待ち望んでくださる声が多い作品でした。
なので、今回ようやく色々発表できて僕もホッとしましたし、原作ファンの皆さんにも「いよいよか」と安心してもらえたかなと思っています。

アニメ化は最初から目指されていたのでしょうか?

アニメ化を目指して書いたというわけではないのですが、ライトノベルというジャンル的に、人気が出ればアニメ化する流れが王道だとは思っていました。ですので、ゆくゆくそうなればいいな、くらいの意識はありました。
どちらかというと、担当編集の岩浅さんのほうが、当初から映像化を意識していたのかもしれません。執筆中の具体的なやり取りの中で、「仮に映像化したときのことを考えると、同じ場所での会話が長いかも」といった指摘を受けたことは覚えています。
イラストに関しても、もちろん最初からアニメ化を念頭にイラストレーターさんを選ぶわけではありませんが、男女ともに広く好まれるような青春作品を目指して、raemzさんにお願いしたと聞いています。

本作は先生の地元である福井を舞台にした作品ですが、先生が見てこられた福井の高校生の生活が反映されている部分はありますか?

自分が福井で過ごした「地方ならではの青春」は、自然と作品に反映されていると思います。最初にチラムネを書こうとしたとき、舞台を福井にするか東京にするか迷いました。物語の展開を考えると、場面転換がしやすく、立ち寄れる場所やイベントも多い東京の方が圧倒的に描きやすい。でも福井には福井にしかない青春があるなと思って、地元を舞台に選びました。

例えば、作中で主人公とヒロインが河川敷で話すシーンがありますが、福井の高校生って自然と「帰り道にちょっと立ち寄るお気に入りの場所」を持っていたりするんですよね。都会のように気軽に入れるカフェが多いわけではないので、コンビニの駐車場や公園でコーヒーを飲みながら話す、みたいなことが結構あるんですよ。

そういうのも含めて「地方にしかない青春のエモさ」ってあるよなと思い福井を舞台にしたので、福井の高校生たちのリアルな日常も、自然と物語の中に溶け込んでいると思います。

特に舞台となる福井市とはアニメ化以前から積極的にコラボが行われています。そういった地元からの応援で印象的なエピソードはありますか?

最初にコラボの話を持ちかけてくださったのは、市役所の方だったんですよね。お話を聞いてみると、ものすごく原作を読み込んでくださっていて、作品に対する愛と熱意を感じました。しかもその方は以前からX(旧Twitter)でチラムネの聖地巡礼マップを自作していた方ご本人だったので驚きましたし、作品を愛し本気で福井を盛り上げたいという想いが伝わってきて、一緒に取り組めることが嬉しかったです。
また、その方がコラボ店舗にも作品の魅力を伝えてくださったことで、お店側も原作をしっかり読んでから協力してくださるケースが多くて。単なるタイアップではなく、作品を理解した上で本気で盛り上げようとしてくださるからこそ、すごくよい形のコラボが実現できています。
最近だと海外から福井を訪れてくださるファンも増えてきました。福井で実施したサイン会の時にも「ベトナムから来ました!」という方がいらっしゃいましたし、コラボイベントに参加するために海外から福井へ来てくださるなど、地元の方々も驚きながら喜んでくださっています。

先生から見たアニメスタッフの印象を伺いたいのですが、まず德野監督についていかがでしょうか?

德野さんは比較的年齢が近いというのもあるのか、驚くほど感性が合うんですよ。僕は原作者として作品の中で「ここは絶対に大切にしたい」という部分がありますが、監督も自然とそこを大事にしてくれていて、シナリオ会議でも、「ここは削りたくない」と考えていたポイントが一致することが多かったですね。あとでお話するキャストオーディションでも、いいなと思う方が監督と同じだったり、監督の絵コンテを見ても率直に「すごくいいな」と感じています。
また監督はとても話しやすい方ですが、その中でも譲らない部分をしっかり持っているところが、一人のクリエイターとしてすごく好きですね。こちらの話を聞いて「確かに」と納得して変更することもあれば、監督のこだわりがある部分は「いや、このままの方がいいと思います」とすごくはっきり言ってくださるところが逆に信頼できるというか。なんでも「原作が言ったから直します」ではなくて、よりよい作品を作るために、お互いの考えをしっかり話し合える関係が築けているのはとてもありがたいです。
德野さんにとって今回が初の監督作品ですが、僕は監督をリスペクトしていますし、監督も原作や僕自身をリスペクトしてくれているのが伝わってくるので、一緒に仕事ができて嬉しいですし、作品の完成がとても楽しみです。

キャストについてはいかがでしょうか?

チラムネの場合、原作の段階でドラマCDやオーディオブックを作らせていただいていて、キャストさんに対する信頼や感謝もあったので、アニメ化の話が来た当初はやはり「同じキャストさんでアニメ化できたらいいな」という思いは正直ありました。

アニメとしては様々な事情から、新しくキャストさんを選ぶことになったのですが、僕自身もキャストオーディションに同席し、演技をすべて聞かせていただいた上で「この方たちならアニメ版のチラムネを安心してお任せできる! ぜひお任せしたい!」と心から思える方々にお願いすることができました。

実際にアフレコにも参加させていただいてますが、皆さん本当に演技が素晴らしくて、とてもお上手です。それぞれが作品を深く読み込み、自分なりの解釈を加えて演じてくださっているので、それを音として聞くなかで、逆に僕自身が新たな発見をすることもあります。そういう意味でも、毎回アフレコに行くのが楽しみでしょうがないですね。

先生のアニメへの関わり方について教えてください

今回、原作者という立場に加えて、シリーズ構成の荒川さんと共同作業という形で全話の脚本にも関わらせていただいています。僕が作品に対してものすごくこだわりが強いので、「アニメの脚本もぜひ自分でやらせてほしい」と相談した結果、荒川さんと一緒に執筆させていただく形になりました。

荒川さんはベテランの脚本家なのですが、アニメ脚本の素人である僕のちょっとした言葉遣いをはじめ、様々なこだわりを全部汲み取ってくれた上で、「それならこうした方がよりよくなるかもしれません」と柔軟に提案してくださいます。僕の感性を尊重しつつ、一緒に考えながら作業を進めてくださるので本当に信頼していますし、なによりそれを面白がってくださるのがありがたいですね。

アニメ化では、尺の都合上どうしても削らなければならない部分が出てきますが、この体制を作っていただいたおかげで、「ここはチラムネとして絶対に残さなければならない」という原作の核となる部分は全部組み込めたかなと思います。

さらに言えば、チラムネは僕のデビュー作ということもあり、最初のほうは今読み返すと「この表現は未熟だったな」と感じる部分や、必要以上に過激な表現をしてしまったところがありました。例えばキャラクターとしての朔が本当に言いたいことは別の言葉だったのに、テーマ性を説明するために無理に言わせちゃった、みたいな箇所がちらほらあります。それをアニメの脚本に落とし込むときに、改めて今の僕の視点で再解釈できたことで、そのときキャラクターが本当に言いたかったセリフをちゃんと言わせてあげられたかなと思っています。

余分なものを削ぎ落とし、本当に大切でピュアな部分をより際立たせることができた。それが、脚本に関わらせてもらった中で一番よかったことかもしれません。

あとこちらも監督や制作スタジオであるfeel.さんの理解あってこそですが、小物や私服、部屋のインテリアもキャラクターの人間性が出ると思っているので、色々細かく提案させていただきました。脚本への参加もそうですが、こうした要望を真摯に汲み取り、できる限り形にしてくださるfeel.さんには感謝しています。

最後に、アニメを楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
これまでお話ししてきたように、僕自身のこだわりはもちろん、監督、キャストの皆さん、荒川さんをはじめとする多くのプロフェッショナルな方々のこだわりと熱意を詰め込んで制作中です。原作ファンの方も、アニメをきっかけにチラムネを知ってくださる方も、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。